1.倒産会社の雇用責任

  • 倒産といっても、それだけで労働契約が当然に終了するわけではない。企業が消滅するまでは、解雇、退職といった手続をふまなければ労働契約は終了しない。
  • 倒産を理由とする解雇にも整理解雇の4要件は適用され、4要件を満たさなければ無効である。
  • 倒産企業の労働者は団結し、団体交渉権・団体行動権を行使して雇用責任を追及するのが効果的である。
  • 再建型の倒産処理もあり、これにより雇用確保が図れる場合がある。
  1. 当然に労働契約が終了するわけではない
     「倒産」といっても、それだけで直ちに企業と労働者との労働契約が終了するわけではない。法的には企業が消滅するまでは、解雇または退職といった手続をふまなければ労働契約は終了しない。労働契約が終了せずに存続している間は、賃金請求権などの労働者としての権利が存続する。
     組合壊滅を目的とする会社解散決議の有効性については、判例は分かれているが、一般的に有効と解されている(三協折器製作所事件・東京高決昭37.12.4)。ただし、会社解散決議は有効であっても、清算手続中における労働契約上の地位が認められた事案もある。なお、解散および解雇が不当労働行為にあたり無効としたうえで、法人格否認の法理により実質的同一体の新会社の労働契約上の責任を認めたものもある(盛岡市農協事件・盛岡地判昭60.7.26)。組合壊滅を目的として解散した会社に対して、労働委員会としては事業の再開命令は出せないが、清算手続中における現職復帰命令と賃金支払いを命じることは出来るとした事件もある(池末興業事件・高知地判平3.3.29)。
  2. 解雇には解雇権乱用法理の適用がある
     会社が、「倒産」を理由に労働者を解雇する場合でも、他の解雇と同様に、解雇権乱用法理による解雇制限がある。つまり、解雇が有効というためには、解雇が社会的に相当と認められるだけの合理的理由が必要であり、それを欠くものは解雇権乱用として、解雇は無効となる。
     使用者側の経営事情などにより生じた従業員数削減の必要性に基づいて一定数の労働者を解雇することを特に整理解雇と呼ぶが、「倒産」を理由とする解雇も、整理解雇の一類型である。整理解雇が解雇権の乱用になるか否かは、次に示す4つの要件を満たしていない場合は解雇権乱用となり、解雇は法的に無効となる。
  3. 整理解雇の4要件
    1. 第1要件=「人員削減の必要性が存在すること」
       人員削減措置が企業の経営上の十分な必要性に基づいていること、ないしはやむをえない措置と認められることである。本当に企業が倒産常態になった場合には、この要件は満たされるであろうが、偽装倒産の場合には、この要件は満たされない。したがって、企業の説明する倒産状態が具体的にどの程度なのか調査する必要がある。
    2. 第2要件=「解雇を回避するための努力義務が尽くされていること」
       労働時間短縮、配転、出向、一時帰休、新規採用の停止、希望退職募集などの雇用調整手段をとりうるのに、それらを活用せずにいきなり解雇の手段に出た場合は、解雇回避努力義務を尽くしていないといえる。
       しかし、一般的な倒産などの場合、この要件を用いて解雇を無効とすることはできないであろう。要するに、具体的に解雇以外の雇用調整手段をとる余地がある経営状況なのか否か、調査する必要がある。
    3. 第3要件=「解雇される者の選定基準が合理的であること」
       整理解雇は、労働者の責めに帰す事由による解雇ではないので、労働者の整理解雇が必要だとしても、被解雇者の選定は、客観的に合理的な選定基準を公正に適用する必要がある。「倒産」の場合一般的には問題にならないが、一部の労働者のみ解雇する場合この要件を満たす必要がある。
       選定基準は勤務成績や能力などを基準にするもの、勤続年数など企業貢献度を基準にするもの、労働者の再就職の可能性や家計への打撃など労働者の生活を基準とするもの、労働者の雇用形態を基準にするものなど各種あるが、事案の具体的事情に応じて、個別に判断することになる。
    4. 第4要件=「解雇手続が妥当であること」
       使用者は、労働組合または労働者に対して、整理解雇の必要性とその内容(時期・規模・方法)について納得を得るために説明を行い、誠意を持って協議すべき信義則上の義務を負う。
       整理解雇について労働協約上の協議条項がある場合の協議違反は勿論無効となるが、無協約の場合でも信義則上の義務はあり、守らなければならない。
  4. 団体交渉による雇用責任追及
    1. 団体交渉権の活用
       倒産の場合、整理解雇の4要件を満たしていなければ労働者個人が地位保全や賃金仮払の申立など裁判で争うことができる。しかし、倒産の場合は従業員個々人が争うより、まず労働組合として団体交渉を行うことが重要である。当然の事ながら労働者には団結権・団体交渉権・団体行動権が憲法上保障されており(憲法28条)、これを活用しない手はない。
       労働組合として地方労働委員会にあっせんや調停の手続を利用することもできるし(労組法20条)、使用者が団交を拒否したり、不誠実な態度をとった場合には、不当労働行為として救済申立をすることもできるし(労組法27条)、機材搬出の中止等の「審査の実効を確保するため必要な措置」を勧告するよう申し立てするなどの方法もある。
    2. 企業再建の要求
       倒産処理には清算型と再建型があり、再建型の場合には全員雇用とまで行かないにしても雇用確保が図られるから、会社再建に向けて資産・負債の状況を調査し、債権者や関係者に協力を求めて行くべきである。
       本業には何の問題もなく、バブル期の投資が破綻要因となっているような企業は、再建の可能性があり、法的手続も和議、会社更生、会社整理などの手続を選択させるべきである。
       さらに、労働者が新たな会社を設立して、倒産会社から営業譲渡を受け、自主的に再建を行うという方法もある。このような取組の中で、退職や解雇を回避し、労働者の雇用を確保することが可能になる。

2.背後資本の雇用責任

  • 企業倒産の背後にある企業が倒産に関与していないか注意し、関与して入れれば労組法第7条の使用者概念を拡大したり、法人格否認の法理を用いてその雇用責任を追及することを考える。
  • 雇用関係にない別企業であっても、団体交渉上の「使用者」になる場合は多々ある。
  • 偽装倒産の場合は、「企業の実質的同一性の法理」に基づき、新設会社や経営者個人の責任も追及できる。
  • 別企業との(黙示の)労働契約関係が認められる場合がある。
  1. 背後にある別企業の責任を追及することの必要性
     企業が倒産する場合、労働契約の当事者であるその企業だけでなく、その背後にあって実質的に会社を支配している者に対しても雇用責任を追及する運動は、昭和40年代から熱心に取り組まれてきた。
     企業倒産の背景には、その背後にある別企業が様々関与していることがある。我が国においては親会社・子会社の関係にある場合や系列関連企業の関係、更には実質上の親会社が子会社の倒産を決定することは往々にしてある。発注会社や元請会社が下請・孫請企業の存立基盤を握っていることもある。また、資本関係や役員派遣はないが主要な取引先、主要取引銀行などが、倒産する企業に対して、その経営・労務政策に大きな影響力を持っている場合もある。
     具体的には、@企業グループ再編の一環として親会社が子会社を倒産させる場合、A金融機関の身勝手な判断や指示(過剰融資、強引な融資回収、貸し渋りなど)によって倒産場合、B多数の下請企業を系列傘下におさめ、無理な取引条件を強要されて倒産する場合、C多数の労働力を請負や派遣として調達してきた企業が、一方的に契約を解約されて倒産に追い込まれるケースなどがある。
     さらに、Dある企業が特定の労働者・労働組合を排除する目的で閉鎖され、形式的に法人格を変えて別企業(実質的に同一性のある企業)で同じ経営者が事業を継続する偽装倒産の例もある。
     以上のように、別企業の関与がなければ企業は倒産しなかったのであるから、労働者としては当然の事ながら、これら別企業に対しても雇用責任を追及することになる。その方法としては、主に労組法7条の不当労働行為に関する「使用者概念の拡大」および「企業の実質的同一性の法理」、労働契約についての「法人格否認の法理」および「黙示の労働契約成立」などがある。
  2. 使用者概念の拡大
     企業が倒産して、労働組合が団体交渉を求め、不当労働行為責任を追及していく場合の相手方としての「使用者」は、「労働契約関係の当事者」に限定されるものではなく、「労働関係上の諸利益に対し実質的な影響力ないしは支配力を及ぼしうる地位にある者」も「使用者」の概念に含まれる。不当労働行為制度の目的は雇用契約当事者としての責任追及ではなく、使用者の団結権侵害行為を排除し、その事実関係を除去する事にあるからである。最高裁も不当労働行為における「使用者概念の拡大」という考え方を承認している(油研工業事件・最決昭51.5.6)。
     その場合に、実質的な支配力を及ぼしうるかどうかの判断要素には次のようなものがある。
     以下、背後資本の使用者性を認めた事例を紹介する。
    @親会社と子会社・関連会社
     子会社(東芝アンペックス)の労働組合が親会社東芝と子会社を相手に、会社解散及びそれに関する団体交渉に応じなかったところ、団交に応じるよう救済を申立た事件(東芝アンペックス事件・神奈川地労委命令昭59.3.31)で地労委は団交応諾義務を認めた。(同旨 船井電機事件・徳島地労委昭48.11.6)
     親会社の使用者性を認めて雇用責任を命じたものとして、福岡運輸事件(福岡地労委昭53.10.30)などがある。阿部写真印刷事件(福島地労委昭53.7.27)は、子会社の解散、解雇を不当労働行為として認定して、親会社に現職復帰と賃金支払いを命じた。
    A請負関係、派遣関係にある受入企業
     最高裁は、請負契約関係にある油圧器製造会社が社外労働者を受入れ設計図政策に従事させていたが、仕事打ち切りを通告したため、請負会社が解散に追い込まれた事案で、受入企業が使用者にあたるとして、団交応諾命令の容認を判示した(最高裁判決昭51.5.6)。
     また、楽団員との出演契約を結んでいた放送会社が団交拒否していた事件(中部日本放送管弦楽団事件・最高裁判昭51.5.6)やキャバレーでバンド演奏に従事する専属楽団員の団交拒否事件(阪神観光事件・最判昭62.2.26)などでは契約の名称や形式にとらわれず、会社が演奏労働力に指揮命令権限を有していた(使用従属関係)として、団交応諾義務を認めた。
     派遣契約に基づく派遣先企業と派遣労働者の関係についても、朝日放送事件で中労委は「テレビ番組制作業務に関しては、本件組合員らを自己の従業員と同様に指揮、監督し、その就労にかかる諸条件を実質的に決定したきた」として派遣先の団交応諾義務を命じ、最高裁もこれを支持した(平7.2.28)。これは派遣法成立後に初めて派遣先企業の使用者責任を認めた重要な判断である。
    B経営者個人
     会社の実権を握り、実質的にみて会社を代表している者、会社経営を左右している者など実質的な経営者個人(個人)には、労組法7条の使用者性を認めている(南崎病院事件・埼玉地労委命令昭58.9.8、佐野製菓事件・大阪地労委命令昭62.2.6など)。
  3. 偽装解散と企業の実質的同一性の法理
     会社が労働組合の結成や組合活動を嫌悪し、組合壊滅の目的で偽装倒産する場合、新設会社や既存の法人格を受け皿会社に対して倒産と雇用責任を追及していくことになる。
     いわゆる偽装倒産の場合は、解散した旧会社と新たに設立された新会社を比較して、資本、役員、従業員、営業関係などが実質的に同一であれば、新会社は旧会社の行った不当労働行為についての責任を負うという「企業の実質的同一性の法理」によって、新会社の雇用責任などを認める命令がある。(秋商産業・秋田米菓工業事件・秋田地労委命令昭58.3.7、飯田橋教育センター事件・東京地労委命令昭53.12.19など)
     司法判断としては、会社代表者と従業員が共謀して、計画的に「廃業」を理由に工場閉鎖、解雇で労働者を排除し、その直後に元従業員名で従前会社と同一事業内容で企業を発足させた事案で、会社代表者個人と元従業員の両名に対し、有限会社法30条の3、商法266条の3に基づき、毎月被解雇者への賃金相当額の損害金の仮払いを命じたものがある。(井上精機解雇事件・大阪地決平10.6.8)
  4. 別企業との労働契約関係の存在
     倒産企業ではなく、その背後にある別企業と既に労働契約関係が成立していると主張する方法もある。そのための論法として「法人格否認」と「黙示の労働契約の成立」である。
    1. 法人格否認の法理
       この法理には、法人格が全く形骸に過ぎない場合(形骸化事例)、法人格が法律の適用を回避するために乱用されている場合(乱用事例)などは、当該法律関係において独立の法人格の存在を否定し、背後にある実態が責任を有するという法理である(山世志商会事件・最判昭44.2.27)。労働契約において子会社の独立した法人格を否定し、背後にある親会社との労働契約関係が存在しているとの論法である。
       形骸化事例で親会社に雇用関係の存続が認められる要件としては@親子会社が経済的に一個の単一体を構成し、A両社が企業活動の面において社会的に単一体であることが求められる。濫用事例では@親会社が子会社を支配し利用していること(支配の要件)、A親会社が違法または不当な目的を有すること(目的の要件)が求められる。
       ただし、裁判では要件が厳しく、親子会社の関係で100%子会社や密接な資本関係がある場合にしか労働契約上の雇用継続責任は認められていないが、運動上は大いに活用すべきである。認められた実例としては船井電機事件(徳島地判昭50.7.23)、中本商事事件(神戸地判昭54.9.21)がある。
    2. 黙示の労働契約成立
       倒産企業と請負関係または派遣関係にある別企業が、倒産企業から労働者を受入れていた場合で、労働者とこの受入企業との間に、黙示の労働契約が成立しているとされる場合がある。
       このための要件として@労働者が受入企業から外形上、受入企業の正規従業員とほとんど差異のない形で労務を提供し(使用従属関係)、A下請・派遣元企業の存在が形式的名目的なものにすぎずB受入企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定している場合でなければならない。